長期修繕計画は「作って終わり」ではない
|修繕積立金の値上げに納得できない理由
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5年ごとの見直しのたびに、修繕積立金の増額という結論だけが届く。なぜその額なのかが見えないまま、管理会社への不信だけが残る。この構造を解くのは、計画と実績を並べて見える化することだと考えています。
計画は立てた。その後、誰が見ているか
長期修繕計画の作り方については、 別の記事 で国土交通省のガイドラインに沿った進め方を整理しました。 ただ、実務でより厄介なのはその先です。計画は作られた。総会でも承認された。では、その計画は 作られたあと、実際の工事とどれくらいずれたのかを、誰が確認しているでしょうか。
長期修繕計画を作成するソフトやサービスは、いくつも存在します。 一方で、実施した工事の実績を記録し続け、計画と突き合わせる仕組みは、あまり見かけません。 計画は「作る」ところまでが商品になっていて、その後の追跡は表計算ソフトと担当者の記憶に委ねられがちです。
5年ごとの見直しで、また積立金が上がる
ガイドラインでは、長期修繕計画はおおむね5年程度ごとに見直すこととされています。 これ自体は正しい考え方です。物価も工事単価も動きますし、建物の劣化状況も当初の想定どおりとは限りません。
ただ、住人の側から見える景色は少し違います。 筆者自身も分譲マンションの一住人ですが、見直しのたびに届くのは 「修繕積立金を増額します」という結論であることがほとんどです。 なぜその額なのか、前回の計画から何がどうずれた結果その額になったのかは、 分厚い資料のどこかには書いてあるのかもしれませんが、少なくとも一目では分かりません。
すると何が起きるか。「また上がるのか」「本当に必要なのか」という感情だけが残ります。 そしてそれは、しばしば管理会社への不信という形をとります。
この不信は、誰かが悪いから起きているのか
ここは冷静に見る必要があります。筆者は、この不信が どちらか一方の不誠実さから生まれているとは考えていません。 むしろ、情報が共有される場が限られているという構造の問題です。 立場ごとに分けて考えてみます。
住人側の事情
普段、管理組合の運営に強い関心を持ち続けている住人は多くありません。 総会の資料に目を通すのも、値上げの話が出たときが最初、ということも珍しくないでしょう。 そして、管理費と修繕積立金がそれぞれ何に使われ、どういう根拠で決まっているのかを 正確に把握している人は、さらに少ないはずです。
関心を持つのが値上げの瞬間だけであれば、そこで根拠を理解するのは無理があります。 判断材料を受け取る準備が、そもそもできていない状態です。
管理会社側の事情
一方で、管理会社が日々行っている業務は、住人からはほとんど見えません。 点検、業者の手配、見積もりの精査、細かな修繕の対応。 その多くは、総会という年に一度の場でまとめて報告されるか、報告書の中に埋もれるかのどちらかです。
日常的に「何が行われ、いくらかかったか」が見えていれば、 値上げの説明はその延長線上の話として受け取られます。 しかし年に一度、結論だけが提示されるのであれば、唐突に感じられても仕方がありません。 情報開示の不足というより、開示のタイミングが総会に集中しすぎている、というほうが実態に近いと思います。
足りないのは「計画と実績を並べて見ること」
では何があれば状況が変わるか。筆者の考えでは、答えはかなり単純です。 計画と実績を、同じグラフの上に重ねて表示することです。
計画だけを見ていても、それが妥当だったかは分かりません。 実績だけを見ていても、多いのか少ないのかは分かりません。 両方が並んで初めて、次のような問いに答えられるようになります。
- 予定していた工事は、予定の時期に実施されたか
- 実際の費用は、計画で見込んだ額に対してどうだったか
- 積立金の残高は、計画上の推移と比べてどの位置にいるか
- 今回の増額は、単価が上がったからか、それとも想定外の工事が増えたからか
最後の問いが特に重要です。値上げの理由が 「資材価格の高騰で工事費が計画を上回った」なのか、 「計画になかった工事が必要になった」なのかで、 住人が受け取る意味はまったく違います。 前者であれば外部要因として理解できますし、後者であれば、 なぜ当初の計画に入っていなかったのかという次の議論に進めます。
値上げに根拠がないケースは、おそらく多くありません。 問題は、根拠が住人に届く形になっていないことです。 数字の裏付けを示せないまま合意だけを求めると、説明する側も消耗します。 見える化は、住人のためであると同時に、説明する理事会と管理会社のための仕組みでもあります。
マンション管理ポータルでできること
マンション管理ポータルには、長期修繕計画の作成機能に加えて修繕実績の管理機能があります。 実施した工事の費用を実績として登録していくと、収支グラフ上で 計画の収支状況と工事実績費用、そして計画との差異を並べて確認できます。
計画を作るところで終わらせず、実績を積み重ねていける点が、この機能の要点です。 5年後の見直しのとき、ゼロから資料を集め直すのではなく、 これまでの差異が蓄積された状態から議論を始められます。 総会で示す資料も、結論だけでなく、そこに至る推移を含めたものになります。
三者が納得できる状態をつくる
目指したいのは、誰かが誰かを説得する構図ではありません。 同じ数字を、住人・理事会・管理会社が同じように見られる状態です。
- 住人は、値上げの根拠を必要なときに自分で確認できる
- 理事会は、前期からの引き継ぎを推移として受け取れる
- 管理会社は、日々の業務と支出を積み上げの結果として示せる
不信の多くは、情報の非対称から生まれます。 同じものを見ている状態をつくれば、議論は「信用できるかどうか」から 「この数字をどう判断するか」へ移ります。そこまで来れば、値上げの議論も前に進みます。
まとめ
長期修繕計画は、作成した時点では何も解決していません。 価値が出るのは、実績と突き合わせて、ずれを把握し、次の判断に使えたときです。 計画を作るだけの運用は、5年ごとに結論だけを突きつける運用になりがちで、 それが住人の不満と管理会社への不信を生みます。
計画と実績を同じ場所で管理し、いつでも重ねて見られるようにしておく。 それだけで、総会の議論の質は変わります。
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国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・長期修繕計画標準様式」
本記事のうち、見直し周期などガイドラインに関する記述は公開情報に基づきます。 住人の受け取り方に関する記述は、筆者の一住人としての経験に基づく見解です。